違いは醸造アルコールを加えるかどうか
純米酒は、米と米こうじと水だけで造るお酒です。本醸造酒も造り方はほとんど同じですが、搾る前のもろみに、少量の醸造アルコールを加えます。加えてよい量には上限があり、法律で決められています。二つの違いは、この一点だけです。純米酒のほうが甘い、本醸造酒のほうが安い、といった印象を持たれがちですが、それは銘柄ごとの違いであって、純米か本醸造かで決まるものではありません。
たとえばSOTO 純米は、すっきりと軽い辛口です。一方、黒松剣菱 本醸造は、コクと旨味のしっかりした味わいです。純米酒だから濃い、本醸造酒だから軽い、とは限りません。ラベルの「純米」「本醸造」から分かるのは、醸造アルコールを加えたかどうかだけで、味わいまでは分からないのです。
純米酒と本醸造酒の決まり
本醸造酒を名乗るには、二つの決まりがあります。一つは精米歩合が70%以下であること。米の表面を30%以上削って使う、という意味です。もう一つは、加える醸造アルコールの量です。使う白米の重さに対してごく少量までと決められていて、かさを増やすような使い方はできません。なお、精米歩合だけでは純米酒と本醸造酒の区別はつきません。黒松剣菱 本醸造も白鶴 エクセレント 純米も、精米歩合は同じ70%です。
- 本醸造酒の原料: 米、米こうじ、水、少量の醸造アルコール
- 本醸造酒の精米歩合: 70%以下
- 純米酒の原料: 米、米こうじ、水のみ
- 純米酒の精米歩合: 決まりなし(2004年から)
純米酒にも、2004年までは精米歩合70%以下という決まりがありました。いまはその決まりがなくなり、70%まで磨かない純米酒も造られています。生酛 黒澤 純米80はその一つで、名前のとおり精米歩合は80%です。また、酔鯨 特別純米酒、久保田 百寿、特別本醸造 八海山のように「特別」と付くお酒は、精米歩合や造り方で、さらに条件を満たしたものです。ただし、醸造アルコールを加えるかどうかの区別は変わりません。
見分け方は簡単で、ラベルを見れば分かります。まず「純米」か「本醸造」の表示を探してください。さらに裏ラベルの原材料名を見ると、純米酒は「米、米こうじ」だけ、本醸造酒はそこに「醸造アルコール」が加わっています。「純米」とも「本醸造」とも書かれていないのに醸造アルコールが入っているお酒は、多くの場合、普通酒です。ふだんの晩酌で親しまれているお酒で、精米歩合などの決まりはありません。
醸造アルコールを加えると、味はどう変わるのか
醸造アルコールを少し加えると、もろみの香りがお酒に移りやすくなり、後味も軽くすっきりします。栄光冨士 本醸造 萬流(10000 Ways)は、その良さがよく分かる一本です。軽やかな辛口で、果実のような香りがあります。アメリカの酒屋でも、いちばん多くの店が扱っている本醸造酒です。
では純米酒は重くて香りが控えめかというと、そうとも限りません。酔鯨 特別純米酒は、醸造アルコールを加えていませんが、酸のしっかりした超辛口です。OneSipでは9件のレビューで平均4.4と、特別純米酒のなかでいちばん高い評価を得ています。辛口かどうか、酸があるか、香りが華やかか。こうした個性は、お米や酵母、蔵の造り方で決まります。
値段についても同じことが言えます。アメリカの酒屋での相場を見ると、白鶴 エクセレント 純米は11ドル前後、黒松剣菱 本醸造は35ドル前後、大七 生酛本醸造は28ドル前後です。SOTO 純米、酔鯨 特別純米酒、生酛 黒澤 純米80はいずれも20ドル前後。久保田 百寿は23ドル前後、特別本醸造 八海山は32ドル前後です。本醸造酒だから安い、純米酒だから高い、ということはありません。値段の差は、精米歩合や造りの手間、銘柄の人気によるものです。
辛口のお酒を探すときは、日本酒度が参考になります。酔鯨 特別純米酒は+7、久保田 百寿は+5で、どちらもはっきりした辛口です。SOTO 純米は+3でやわらかめの辛口、特別本醸造 八海山は+4でその中間です。純米酒も本醸造酒も混ざっていますが、日本酒度を見れば味の見当がつきます。
「アル添」が敬遠されてきた理由
醸造アルコールを加えたお酒、いわゆる「アル添」には、あまり良くないイメージを持つ人もいます。きっかけは戦中から戦後の米不足でした。少ない米でたくさんのお酒を造るために、醸造アルコールや糖類を大量に加えて増量した、三増酒と呼ばれるお酒が出回ったのです。アル添は水増しした安いお酒、という印象はこのころに生まれました。
いまの本醸造酒は、三増酒とはまったく別のものです。加えられる醸造アルコールはごく少量で、目的も増量ではなく、香りと味わいを整えることにあります。久保田 百寿はその良い例です。1980年代に新潟の淡麗辛口を全国に広めた特別本醸造で、すっきりとした味わいは、ていねいな造りがあってこそのものです。純米か本醸造かにこだわらず、飲んでおいしいと思うお酒を選んでみてください。
10本を比べてみると
この記事で紹介した10本を、精米歩合と価格で比べてみました。
| 銘柄 | 種類 | 産地 | 精米歩合 | 価格 |
|---|---|---|---|---|
| 白鶴 エクセレント 純米 | 純米 | 兵庫 | 70% | 11ドル |
| 酔鯨 特別純米酒 | 特別純米 | 高知 | 55% | 20ドル |
| 生酛 黒澤 純米80 | 純米 | 長野 | 80% | 20ドル |
| SOTO 純米 | 純米 | 新潟 | 65% | 20ドル |
| 黒松剣菱 本醸造 | 本醸造 | 兵庫 | 70% | 35ドル |
| 栄光冨士 本醸造 萬流(10000 Ways) | 本醸造 | 山形 | 不明 | 17ドル |
| 久保田 百寿 | 特別本醸造 | 新潟 | 60% | 23ドル |
| 大関 辛丹波 | 本醸造 | 兵庫 | 不明 | 不明 |
| 大七 生酛本醸造 | 本醸造 | 福島 | 不明 | 28ドル |
| 特別本醸造 八海山 | 特別本醸造 | 新潟 | 55% | 32ドル |
場面に合わせて選ぶ
食事の前に軽く一杯飲みたいときは、SOTO 純米や酔鯨 特別純米酒がおすすめです。どちらも軽やかな辛口で、冷やすとおいしく、おつまみがなくても楽しめます。
寒い日や、味のしっかりした料理に合わせるなら、本醸造酒の燗がよく合います。黒松剣菱 本醸造と大関 辛丹波は、燗にしておいしいお酒の定番で、居酒屋でもよく燗酒として出されています。純米酒では、白鶴 エクセレント 純米が燗に向いていて、濃い味の料理にも負けません。
昔ながらの生酛造りのお酒を、純米酒と本醸造酒で飲み比べてみるのもおすすめです。生酛 黒澤 純米80は、旨味の濃い純米酒です。黒松剣菱 本醸造と大七 生酛本醸造は、どちらも生酛造りにこだわる蔵の本醸造酒です。同じ造りでも、醸造アルコールを加えるかどうかで味わいがどう変わるのかを確かめられます。
お店でどれにするか迷ったときは、純米か本醸造かだけで決めずに、精米歩合や日本酒度、蔵元の説明も見てみてください。そのほうが、好みに合うお酒を見つけやすくなります。純米酒にも本醸造酒にも、おいしいお酒はたくさんあります。
記事中の価格は、執筆時点でのアメリカの酒屋における720mlボトルのおおよその相場です。価格は変わることがあるので、目安としてご覧ください。








