日本酒のブランド名から読み取れること
日本酒のブランドとは、蔵元の名前、あるいは輸出向けのラベル名に、その蔵ならではの味の方向性と価格帯がひもづいたものです。ブドウ品種というより、ワインの生産者に近い感覚だと思ってください。純米、吟醸、本醸造といった言葉は精米歩合や醸造アルコールの有無を示すだけで、実際にどんな味がして、瓶ごとのばらつきがどれくらいかを教えてくれるのはブランドのほうです。分類を丸暗記するより、十数のブランド名をきちんと覚えるほうがずっと役に立ちます。同じ純米大吟醸でも、蔵が違えば別物の味になることは珍しくありません。
この記事の価格は、執筆時点でのアメリカの酒販店における720mlボトルの相場です。日本酒の価格はよく動くので、見積もりではなくあくまで目安として見てください。
どこにでもあって、外さないブランド
とにかく目にする機会が多いので、買う価値があるのかどうかを知っておきたい。そんなブランドから始めます。
白鶴酒造は、兵庫県神戸市の酒どころとして知られる灘に蔵を構えています。OneSipの掲載店数で見ると、純米吟醸としてはアメリカで最も多い145店に置かれています。最初の一本には、精米歩合60%の純米吟醸、白鶴 スペリアーがいいでしょう。穏やかでやや甘口、価格は15ドル前後。居酒屋やスーパーで、あれこれ迷わず安心して選べる一本が欲しい人にちょうどいい銘柄です。
Tozaiは京都の黄桜の輸出向けブランドで、純米酒のTozai Living Jewelは、アメリカで日本酒を飲み始める人が最初に手に取ることの多い一本です。取扱いは168店。精米歩合70%、軽くてすっきりした味わいで、価格は15ドル前後。お金をかける前に、まずは気軽に純米酒を試してみたい人に向いています。
高級銘柄
獺祭は山口県の旭酒造のブランドで、海外で純米大吟醸がここまで知られるようになった最大の立役者です。精米歩合45%、メロンや洋梨を思わせる澄んだ果実味の獺祭 純米大吟醸 45は、アメリカで最も広く流通している純米大吟醸で、取扱いは38店、価格は27ドル前後。獺祭を試すならまずここからです。23%まで磨いた獺祭23は、絹のような口当たりと華やかな香りで価格は70ドル前後。きちんとした記念日に開けたい人向けの一本です。
久保田は新潟県の朝日酒造のブランドです。獺祭の旭酒造と同じ読みですが、まったく別の蔵です。最初の一本には、精米歩合55%、日本酒度5の吟醸、久保田 千寿を。軽やかな辛口で香りは控えめ、少し冷やしても常温でもおいしく、価格は25ドル前後です。料理の邪魔をしない静かな食中酒を探している人にぴったりです。シリーズの頂点にあたる久保田 萬寿は精米歩合50%、洗練された辛口で価格は60ドル前後。同じ蔵の造りをさらに突き詰めた一本に、もう少し出してもいいと思える人向けです。
新潟県の八海醸造は、雪解け水で仕込み、派手さよりも均整のとれた味を大切にしている蔵です。最初の一本は精米歩合55%の特別純米原酒 八海山。雑味のない辛口で品質も安定していて、価格は15ドル前後です。特別な夜には、精米歩合45%、日本酒度4の純米大吟醸 八海山に上げてもいいでしょう。こちらは30ドル前後。久保田ほどの価格を出さずに、新潟らしい淡麗辛口を楽しみたい人に合っています。
クラフト系と地方の蔵
新潟の菊水は、性格の違う2本でその幅の広さを見せてくれます。菊水 純米吟醸 オーガニック清酒は有機米を使い、精米歩合55%、軽やかな辛口で価格は29ドル前後。米の産地にこだわりたい人向けです。対照的なのがふなぐち 菊水 一番しぼり。火入れも加水もしていない本醸造の生原酒を金色の缶に詰めたもので、アルコール度数は19%。濃厚で甘みと旨みがしっかりあり、よく冷やして飲むのが一番です。720mlの掲載価格はないので、探しに行く前にOneSipで取扱店を確認してください。
山形県の出羽桜酒造が造る桜花吟醸酒 山田錦は、1980年に香り高い吟醸酒を手頃な価格で売り出し、日本の吟醸ブームの火付け役になった銘柄です。今も精米歩合50%で、リンゴやメロンのような香りと辛口の余韻があり、価格は37ドル前後。分類名だけでなく、吟醸という酒がたどってきた歴史に興味がある人におすすめします。
島根県の李白酒造は、唐の詩人、李白から銘柄名を取っています。精米歩合55%の李白 純米吟醸 WANDERING POETは、丸みのある旨みにほのかなメロンの香りが乗った味わいで、OneSipでも評価の高い純米吟醸のひとつ。価格は16ドル前後です。定番ブランドとほとんど変わらない値段で、地方の蔵ならではの個性を味わいたい人に向いています。
高知県の酔鯨酒造の名は、酔った鯨という言葉から来ています。精米歩合55%、日本酒度プラス7の酔鯨 特別純米酒は、切れのある辛口で酸もしっかり。OneSipの特別純米酒では最も評価が高く、価格は20ドル前後です。たいていの純米酒を物足りなく感じる、飲みごたえのある酒が欲しいという人に合います。
佐賀県の富久千代酒造が造る鍋島 Summer Moonは、夏限定の吟醸酒です。精米歩合50%、明るくほんのり甘い味わいで、価格は36ドル前後。分類ではなく季節で酒を選びたい人におすすめです。
兵庫県灘の剣菱は1505年から酒造りを続ける、日本酒の中でも最も古いブランドのひとつです。木の道具を使った生酛造りで、精米歩合70%の黒松剣菱 本醸造は、深い旨みがあり燗で真価を発揮します。価格は35ドル前後。果実のような香りの現代的な吟醸酒ではなく、昔ながらの日本酒らしい酒を飲みたい人に向いています。
アメリカ産の日本酒についても、正直に
アメリカの日本酒売り場でおなじみの銘柄のいくつかは、実は輸入品ではありません。日本企業のアメリカ法人が、主にカリフォルニアで醸造しています。これは欠点ではなく、たいていの場合は価格が抑えられ、供給が安定しているという利点につながっています。
宝酒造USAは1983年からカリフォルニア州バークレーで松竹梅を醸造しています。精米歩合70%の松竹梅 Classic 純米は、アメリカの日本食レストランで燗酒の定番になっている一本で、冷やより燗のほうがおいしく、価格は7ドル前後。料理酒として、あるいは家で気軽に燗を楽しむ用に、最も安くて頼れる一本です。
Gekkeikan USAはカリフォルニア州フォルサムで醸造しています。純米酒のGekkeikan Black & Goldは、広く流通している純米酒の中でOneSipの評価が最も高く、コクがあってほのかに香ばしく、燗でも冷やでもいけます。価格は12ドル前後で、取扱いはアメリカの216店。この記事の中で最も多くの店に置かれている一本です。安いものは味もそれなり、という思い込みを覆したい人にどうぞ。
大関もカリフォルニアで醸造しています。大関 辛丹波の名は辛口の丹波という意味で、しっかりした辛口の本醸造として、多くの居酒屋が店の燗酒に採用しています。720mlの掲載価格はないので、OneSipで取扱店を確認してください。レストランで飾り気のない辛口の燗酒を頼みたい人向けです。
オレゴン州フォレストグローブのSakeOneは、アメリカ産のカルローズ米でMomokawa Diamondを醸造しています。精米歩合58%のこの純米吟醸はすっきりした中辛口で、価格は14ドル前後。アメリカ産の米で造った日本酒を手頃に試してみたい人に向いています。
ニューヨークのインダストリーシティにあるBrooklyn Kuraは、Number Fourteenという純米吟醸を造っています。日本酒度は0、はっきりした酸と少し野性味のある味わいで、価格は27ドル前後。アメリカの日本酒の最新の動きを追いたい人、そして磨き上げた上品さより主張のある酒が好きな人におすすめです。
選び方
覚えておくのが数ブランドだけなら、この表を早見表として使ってください。
| ブランド | 産地 | 最初の一本 | こんな人に |
|---|---|---|---|
| 白鶴 | 兵庫県 | 白鶴 スペリアー | どこでも手に入る、気軽な一本 |
| Tozai | 京都府 | Tozai Living Jewel | 安くて優しい、はじめての純米酒 |
| 獺祭 | 山口県 | 獺祭 純米大吟醸 45 | 贈り物にもなる純米大吟醸 |
| 久保田 | 新潟県 | 久保田 千寿 | 食卓に合う辛口の食中酒 |
| 酔鯨 | 高知県 | 酔鯨 特別純米酒 | しっかりした酸が欲しい人 |
| Gekkeikan | アメリカ カリフォルニア州 | Gekkeikan Black & Gold | 売り場で一番コスパの良い純米酒 |
希少な酒を追いかける必要はありません。本当に覚えておく価値のあるブランドとは、来月もまた普通に買えて、納得できる値段で、しかも自分が好きだとわかっている蔵の酒であることがほとんどです。






